さて葬儀です。
叔父は生前から子供がいないからと自分なりに最期のことをいろいろ考えていたようだ。
自筆遺言状も残していた。
家のローンも完済している。
お金の管理はすべて叔母がしていた。
ほとんどが叔母名義の金融商品だったが、亡くなる前に叔母は叔父名義の普通預金の現金をカードでほとんどおろしていた。(死亡すると銀行口座が凍結されます!!)
常々「葬式も誰も呼ぶな、ゆりちゃんにだけ見送って欲しい」と言っていたことを思い出しつつ、
私たちは、亡くなった日に、叔父が入っていた互助会に電話して葬儀の手配を頼んだ。
「直葬プランでもいいくらいなんです」
翌日打ち合わせに来た葬儀社の人に叔母は言った。
「故人の遺言なので、本当にこの3人だけでいいんです」
「いやいやゆりちゃん、私たちの旦那もおじちゃんにはお世話になったよ」
「あ、そっか、じゃ、あなたたちは夫婦で参加していいわ。で5人」
「5名ですか・・・後々、大丈夫ですか?故人様のご兄弟とかにお声掛けは」
「いいんです。絶縁してますから」
「ゆりちゃん・・・絶縁してるのはうちのお父さんとだけでしょ」
「あ、そっか」
「うちの母(叔父の実姉)とは仲良かったじゃない、伊佐おじちゃん(叔父の実弟)は、柊子おばさん(叔父の実姉)は?」
「あ、そっか・・・呼ばないとダメかな・・・」
「生前、故人様がご葬儀について何かご親戚の方におっしゃってましたか?」
「まさか・・・こんなに早く亡くなるなんて思ってなかったので」
「ご判断にお任せしますが・・・」
後に葬儀社の方に伺ったところ声をかけなかったと怒る親戚の方が多いということ…。
トラブルは避けたいですよね。
さて、こんな時に遺言状が役に立つでしょうか?
「ね、遺言状になんて書いてあるの?」
「・・・それがね、開けられないの」
「えええええええ!!」
「自宅で書いた遺言状って検認って必要なんだって」
ゆりちゃん夫婦の趣味仲間に杉本さんという行政書士の資格を持って法律事務所で働いている方がいる。
念のために杉本さんに相談したところ自筆遺言状は「検認」しないとあとあと面倒だとのことだった。
※遺言書の検認とは、遺言書の発見者や保管者が家庭裁判所に遺言書を提出して相続人などの立会いのもとで、遺言書を開封し、遺言書の内容を確認することです。
そうすることで相続人に対して、確かに遺言はあったんだと遺言書の存在を明確にして偽造されることを防ぐための手続きです。
さんざん叔父がいってたよなぁ「ちゃんとした書式で遺言状を書けば自筆でも問題ない」って・・・。
嘘ばっか・・・。
ため息をつく3人。
「・・・呼ぶ人どうしようか」
「ゆりちゃんが決めていいと思うよ。」
「・・・そうね。唯夫さんの肉親だけは呼ぶわ。その伴侶はご遠慮いただきます。姪はあなたたちだけで」
「岡林様、ご近所の方は・・・」
「家族葬でお願いします。故人の意思ですので。あと火葬の後、粉骨もお願いしたいです。海洋散骨も故人の意思ですので」
「・・・え。当日のうちに粉骨ですか?え、できるかな」
「???」
「基本、火葬場はご焼骨だけです。粉骨するのは別の施設になります」
「では、お願いします」
「・・・誠に申し上げずらいのですが、弊社にその実績がございません。ご葬儀から火葬までが通常ですので。お近くですと・・・セレモ石井という葬儀社ならできるかと・・・」
「え・・・セレモ・・・」
「どうしたの?誰かのお葬式で雰囲気悪かったとかそういう葬儀社なの?」
「違うのよ」
2時間後、ご紹介いただいたセレモ石井から来た担当者。
「岡林様!この度は誠にご愁傷さまでございました。おっしゃっていただければ私共から伺いましたのに。いままでも岡林様にはお世話になっておりましたし」
「???(葬儀社に感謝されるゆりちゃんて何者?)」
「ご親族だけで、はい、かしこまりました。さようでございますね。岡林様のご葬儀となると何人いらっしゃるか見当もつきませんので」
ど、どういうこと・・・?
「民生委員を長年してるでしょ・・・」
「うん」
「お一人や、ご夫婦だけの世帯で亡くなられると、みなさんお困りなのよ。で、ご紹介したり一緒に打ち合わせに同席したり、もちろんお願いされてよ。仕事の範囲じゃないわよ」
つまりゆりちゃんはセレモ石井ホールのお得意さんってことなのね・・・。
私たちは見積書に「岡林様割引」という文言をみつけ絶句した。そんな割引、見たことも聞いたこともない・・・
叔父は最愛の妻と姉弟、仲の良かったヨット仲間2人、そして後を託した姪の家族だけに見送られ、お通夜なしのこじんまりとした家族葬、焼骨、粉骨と経て白い粉になった。
※葬儀に誰を呼ぶか、難しい問題だと思いました。
りえこはゆりちゃんには言いませんでしたが絶縁しているとはいえ、親しく付き合っていた時期もあるりえこの実の父(叔父にとって義弟)を呼ばないことを悩んでいました。
「誰も呼ばないで」とか「こじんまりとした」ってよく聞きますが、なかなか本人の望む形にならないものだと思いました。
そして葬儀の時には遺言状は開封できていません・・・。